大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成10年(ワ)3473号 判決

原告

株式会社タカショウ

被告

水飼忠三

ほか一名

主文

一  被告水飼忠三は、原告に対し、金七四万三六六八円及びこれに対する平成九年八月二六日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、被告水飼忠三に生じた費用の五分の一及び原告に生じた費用の一〇分の一を被告水飼忠三の負担とし、その余はすべて原告の負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、各自原告に対し、金三六〇万円及びこれに対する平成九年八月二六日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

なお、本件は、金三六六万八三四四円の内金請求である。

第二事案の概要

一  本件は、原告が、被告水飼忠三(以下、「被告水飼」という。)に対しては民法七〇九条に基づき、被告中央鋼材株式会社(以下、「被告会社」という。)に対しては民法七一五条に基づき、後記の交通事故により原告が被った損害の賠償を求めている事案である。

交通事故(以下、「本件事故」という。)の内容

(一)  日時 平成九年八月二六日 午前一〇時ころ

(二)  場所 千葉県浦安市鉄鋼通り一丁目三番先道路

(三)  加害車両 被告水飼運転の大型貨物自動車(土浦一一・さ・七六四〇)

(四)  被害車両 原告の所有する訴外望月勲(以下、「訴外望月」という。)運転の普通貨物自動車(川崎一一・あ・八五八八)

(五)  態様 被害車両が追越車線を直進中、前方の走行車線を走行中の加害車両が左折した際、車体からはみ出していたH鋼が被害車両に衝突した。

二  争点

1  被告水飼の過失の有無 あるとした場合、過失相殺の有無、程度

2  被告会社の責任の有無

3  損害額

第三争点に対する判断

一  被告水飼の過失の有無、過失相殺の有無等について

1  被告水飼の過失の有無、これがあるとした場合の過失相殺の有無、程度は、本件事故の態様がどのようなものであったかを検討することにより判断される事柄である。

原告は、加害車両に積まれていたH鋼は、三・六三メートルも車両本体からはみ出ており、事前に制限外積載の許可を警察から受けて走行すべきであったのにこれをせず、左折の際に、後方の安全確認をせず、しかもウインカーを出さずに突然左折したために本件事故が起きたのであり、被告水飼の過失責任は重大であると主張している。

これに対し被告水飼は、本件事故当時には、大型車で鋼材を運搬するので鋼材の先端に赤旗を付けており、問題の左折の際には、左折合図のウインカーを出し、実際に加害車両が左折を開始した後に、訴外望月が前方注視を怠って被害車両が加害車両に衝突したもので、被告水飼には何らの過失がなく、仮にあったとしても、訴外望月の前方不注視という重大な過失があるので、大幅な過失相殺がなされるべきであると主張している。

2  本件事故当時加害車両に積載されていたH鋼は、荷台後部から三・六三メートルもはみ出しており、加害車両の長さが一一・九メートルである(甲第一〇号証)ことからすれば、そのままでは道路交通法五七条(同法施行令二二条四号)に違反しており、かつ、自己の車両の後部にH鋼という衝突した場合に重大な衝撃を与える可能性の大きい積載物が相当はみ出しているのであるから、当然事故防止の観点から、被告水飼が加害車両を運転するにあたっては、他車特に後続車に対して右のはみ出しの点を注意喚起すべく必要な措置を講じるべきであり、走行中も、後方の安全確認を特に慎重にすべき義務を負っていたものと解すべきである。

本件においては、そもそもこのような危険な状態で走行していたこと自体も問題ではあるが、原告の主張との関係では、道路交通法違反の点はともかく、注意喚起の措置としてはビニール製の赤旗が取り付けられていた(甲第一〇号証)ものの、現実の左折の際には、はみ出したH鋼が一時的ではあるが隣の追越車線をも一部塞いでしまうことになるのであるから、追越車線の後方にも自己の車両が左折し切るまでの余裕があるかを確認した上で左折すべき義務があるところ、右義務の履行のために被告水飼が特段の措置を採ったという事情は認められず(乙イ第四号証、甲第一一号証)、この点において被告水飼の過失が認められる。

3  一方、訴外望月にも前方不注視という重大な過失が認められる。

本件事故の状況は、加害車両が左折を開始し、加害車両からはみ出していたH鋼が追越車線を塞ぐような状態になった際、追越車線を走行してきた被害車両の左前部がいわば追突的に衝突したものであり、この点は、被害車両の破損状況等から明らかである(乙イ第五号証、甲第一〇号証等)。

また、訴外望月は、本件事故直前信号待ちの際に加害車両を認めており、信号が変わって発進した際には加害車両の荷台からH鋼がはみ出ていたのを確認していたのに、H鋼の先端の赤旗は確認していないし、加害車両の左折合図のウインカーも確認していないと述べている(甲第一一号証)。しかし、実際には前述のとおり赤旗は付けられていたのであり、実際に付けられていた赤旗を確認していないというのは、訴外望月の前方不注視を示すものであるから、訴外望月が加害車両の左折合図(ウインカー)を確認できなかったというのも、被告水飼が合図を出さなかったからではなく、訴外望月がこれに気が付かなかっただけであると考えられる(乙イ第四号証。なお、加害車両の後部から特にはみ出していたH鋼は一本か僅かであったと認められるから、これによってウインカーの合図が見えなかったということはない。甲第一〇号証の写真番号の三、四)。

以上のような点を総合すると、本件事故は、訴外望月が前方を注視しなかったために、加害車両の荷台から相当はみ出していたH鋼の存在を十分認識せず、かつ、加害車両が左折することを見落として走行したために、左折を開始し現に相当曲がって来ていた(甲第一〇号証の交通事故現場見取図参照)加害車両からはみ出していたH鋼に、自車両の左前部を追突的に衝突させたという意味合いの強い事故であり、訴外望月の過失は重大であって、むしろ、訴外望月の前方不注視が本件事故の主たる原因であると判定される。

本件においては、原告に八割の過失相殺をするのが相当である。

二  被告会社の責任

原告は、被告会社は、被告水飼車が免許を受けていないことを知りながら、被告水飼に専属的に下請けさせて自己の業務に使用していたから民法七一五条の使用者責任があることは明らかであると主張している。

しかし、請負契約の場合請負人が仕事を完成させるにつき自主性、独立性を有しているから、そもそも注文者について使用者責任が問題となることは少ない上、本件の場合、被告会社は訴外日新重機有限会社に運送業務を請負わせているのであって、被告水飼はその訴外日新重機有限会社から運送業務を請負っているのである(乙イ第四号証)から、被告会社に使用者責任は生じない。

三  損害額の算定

1  車両損害 金一七八万円(請求どおり)

被害車両は本件事故により全損となったので、事故当時の価額が損害額となる(甲第二号証)。

2  レッカー料金 金九万九五四〇円(請求どおり、甲第三号証)

3  荷台、クレーン乗せ換え費用 金五二万五〇〇〇円(請求どおり、甲第四号証)

前述のとおり、被害車両は全損となり、原告の業務上の必要から新車に買い換えることとなるので、それに伴って必要な装置、登録関係費用は相当な範囲で損害と認められる。

被害車両にはクレーンを搭載しており(乙イ第5号証)、新車に乗せ換えることは業務上の必要があるから、損害と認めることができる。

4  廃車手続費用 金五万二五〇〇円(請求どおり、甲第四号証)

5  自動車取得税等 金一六万六二〇〇円(請求どおり)

前述のとおり、新車買い換えの必要があるので、それに関して必要な費用である自動車取得税(金一一万八八〇〇円、甲第四号証)、自動車重量税(二万二四〇〇円、甲第五号証)、車検登録費用(手続代行の相当費用も含む、金二万五〇〇〇円、甲第五号証)は損害として認めることができる。

6  休車損害 金七四万五一〇四円(請求どおり)

被害車両が全損のため新車にて稼働するまでの休車損害として、甲第六号証及び第七号証の一、二により、右の損害額を認めることができる。

7  以上の損害小計 金三三六万八三四四円

8  過失相殺後の金額 金六七万三六六八円

前記の損害小計に対し八割の過失相殺をするので、過失相殺後の金額としては右のとおりとなる。

9  弁護士費用 金七万円

本件交通事故と因果関係のある損害として、原告が請求できる弁護士費用は、本件事案の性質、認容額、審理経過等を総合勘案して、金七万円とするのが相当である。

四  結論

以上により、原告の本訴請求は、被告水飼に対して金七四万三六六八円及びこれに対する平成九年八月二六日から完済に至るまで年五分の割合による金員の支払いを求める限度で理由があり、その余はいずれも理由がない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 村山浩昭)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例